【面接官が会社をダメにする】あなたのまわりに潜む、残念な面接官
「じんじろうさんは、『ああ言えばこう言う』タイプだね。」
広い役員面接の部屋で、ズラリと並んだ年配男性5人のうち一人が僕にこう言ったのは、学生の頃うけた、ある老舗企業の最終面接でのことだ。
時は就職氷河期。多くの企業が業績を落とし採用数をしぼる中、就活に明るいニュースは少なかった。
なんとか内定を取らなくてはならない。その思いで、僕は必死だった。
その面接でのやりとりは、僕なりには順調に進んだ。志望動機、いわゆる「ガクチカ」、将来のビジョン・・。
学生時代の取り組みを面接用のエピソードに仕立てるのが得意だった僕は、質問テーマごとに3つほどのストーリーを用意し、どう伝えたらよいか、ひたすら練習した。
おもしろいもので、回数を重ねるほど板についてきて、スラスラと口から物語が出てくるようになった。
広い最終面接会場は、最高裁のような荘厳さがあった。5人のスーツ姿の年配男性は、それぞれ偉いのだろう、恰幅系・鋭い眼光・じっと資料に目を落とし身じろぎなし・退屈系・あら捜し党、というバリエーション。
面接の進行役はあら捜し党だ。
「さっきじんじろうさんは、大きな困難にぶつかったとき、〇〇の解決策で対応した、と言っていましたが、ほんとうにそれが正しかったと思いますか?」
「じんじろうさんが最初に言われていたことと、今の話は矛盾しているように私には感じますが、どうですか?」
「次に同じような困難が訪れたら、さきほどのような解決策では立ち行かないと思いますが、どうですか?」
あら捜し党が繰り出す質問は、どこかいじわるで、向き合ってくれている気がしない。
僕はなんとか跳ね返さなきゃと、ひとつひとつの質問に、なるべく感情を抑えて、回答することを試みた。
恰幅系が口を開いた。
「じんじろうさんの話は、どこか作られたもののように感じます。本当の話ですか?」
・・本当の話だよ、嘘はついていない。とてもたくさん想定して、練習しただけだ。
「はい、もちろんすべて事実です。証明はこの場でできませんが、嘘をついて合格をいただいたとしても、事実でなければわかってしまうので、得することはないと思います」
恰幅系は不満げな表情を浮かべた。
割ってはいったのは、鋭い眼光だ。
「じんじろうさんは、多くの会社を受けていると思いますが、同じようなエピソードを他社でも話しているのですよね?」
何を聞きたいのかよくわからなかったが、そうなので「そうです」と答えた。
「ウチならではの話をされないのはなぜですか?」
鋭い眼光は、眼光は変えずに、ただ少しだけ「勝ち」を目前にしたような表情をした。
「僕の学生時代やってきたことは変わらないからです。それをお話したくて、同じような質問には同じことをお答えしています」
冒頭の言葉に至ったのは、ここまで何人かの面接で飽きてもいたのだろう、ずっと興味なさそうに聞いていた退屈系だ。
「じんじろうさんは、『ああ言えばこう言う』タイプだね。」
・・・ああそうですよ、と心から思った。でもそうは言わずその後のやりとりを無難に片付け、ていねいに部屋を出てきたことは、今にしてみれば、若かったがこらえた自分を褒めてあげたいし、
いや、言ってもよかったのかも、今なら言ってしまうかも笑、とも思う。
そうして老舗企業の最終面接は、不合格になった。
もし、「こちらからお断り」の権利があったら、面接の帰り道でそれをしていただろう。
いま自分は面接官の仕事をしている。学生を試すこともしないし、いじわるもしない。
そうした面接官たちは言う。圧迫したときにわかることがある、耐性をみているのだ、とっさの対応力をみるためには変化球がよいのだ、と。
でもそれは違うと思う。
対話になっていないからだ。
学生が準備してきたことを全部出してもらって、面接の場では、なるべくよいパフォーマンスをしてほしいと、その場を作る。
研究の話は、特に好きだ。難解な研究テーマでも、打ち込んでいる人は楽しそうに話す。素人の僕にも、対話をすれば、その面白さをていねいに教えてくれる。
就活なんて、面接なんて、作り物だと言ってはいけないと思う。
僕ら面接官は、真剣な彼らに、その何割増しかの真剣さで返してあげないといけないのだ。